TOP マガジン Think IT寄稿記事 第5回「創業期以降の成長戦略とファイナンスを考える」

Think IT寄稿記事 第5回「創業期以降の成長戦略とファイナンスを考える」

※こちらは、エンジニア向けメディア「Think IT」にFlex Capitalが寄稿した記事の転載内容となります。

第5回の今回は最終回として、「創業期以降の成長戦略とファイナンスを考える」と題して、それぞれのステージでの課題と機会、そして適切な資金調達方法や財務管理のポイントを解説し、持続的な企業成長を支えるための指針を提供します。

目次

はじめに

これまでの連載では、起業時に必要なファイナンスの基礎知識や資金調達手段の選択方法について詳しく解説してきました。しかし、起業はゴールではなく、新たな挑戦の始まりです。事業を持続的に成長させ、安定した企業へと発展させるためには、各成長ステージに適した戦略とファイナンスの見直しが不可欠です。

最終回となる今回は、創業期を経た企業が直面する「成長期」「安定・拡大期」「衰退・再成長期」の各段階におけるファイナンス戦略について考察します。それぞれのステージでの課題と機会、そして適切な資金調達方法や財務管理のポイントを解説し、持続的な企業成長を支えるための指針を提供します。

 

成長期におけるファイナンス戦略

成長期の特徴と課題

「成長期」は、提供している製品やサービスが顧客のニーズを捉え、市場に受け入れられることで売上が急速に拡大する段階です。このフェーズでは、以下のような課題が生じます。

  • 需要の急増に対応するための運転資金拡大による資金不足

競合他社の出現と市場シェアの確保組織の拡大に伴う人材採用と育成

これらの課題に対応するため、適切な資金調達と財務管理が求められます。

資金調達手段の選択

銀行融資や公的支援の活用

事業の実績が出てくると、銀行からの融資や公的機関の支援が受けやすくなります。ただし、銀行は急激な成長に伴う資金を機動的に提供することはあまり得意ではなく、成長を支え切るには十分な資金が得られない可能性がある点に注意が必要です。

【メリット】

  • 株式の希薄化を防げる
  • 低金利での資金調達が可能
  • 返済計画が明確

【デメリット】

  • 返済義務と利息負担
  • 融資額や条件に制約がある
  • 財務諸表の開示や代表者による連帯保証・担保の提供が必要な場合

ベンチャーキャピタルや事業会社からの資金調達

成長期において、提供しているプロダクトに対する顧客のニーズが明確になり、市場が拡大していることが認知されはじめると、一気に競合が参入してくるケースが見られます(例:スキマバイトのタイミーの成長に対するメルカリをはじめとする各社の参入など)。

そういった場合に投資を加速し競合を突き放す手段として、株式を一部手放してベンチャーキャピタルや事業会社からの投資を受けることで、非連続的な成長を遂げることができる場合があります。

【メリット】

  • 株式の希薄化を防げる
  • 低金利での資金調達が可能
  • 返済計画が明確

【デメリット】

  • 株式の希薄化
  • 高いリターン要求と経営への干渉リスク
  • Exit戦略のプレッシャー(IPOやM&Aなど)

財務管理のポイント

適切な採用計画とキャッシュフローの最適化

成長期には、売上が増加する一方で、増加する売上を支えるための在庫や設備投資、人件費などの支出も増加します。特に、人件費は将来に向けて先行して採用を行い人員を拡大する必要がある一方で、採用計画を誤ると過剰な人員を抱えることで一気に収益性を悪化させてしまう要因となるため、慎重かつ適切な採用計画を立てる必要があります。

また、成長期の企業は社内体制が成長に追い付いておらず、一定の混乱をきたしていることが多いため、とにかく採用を進めるという選択肢をとりがちですが、ここでしっかりと資金計画と売上計画に沿った採用を進められるかが、持続的な成長を遂げられるかのカギとなります。以下のような点を考慮しながら採用計画を実行していくことが良いでしょう。

  • 人員計画の定期的な見直しと予実の管理
  • 社内リソースの適切な管理と余剰リソースの再分配

成長期において増加する運転資金を適切にコントロールしないと、売上は増加していても現預金は減少を続け、事業に支障をきたす場合があります。仕入れや購買活動における支払いサイクルと売上の入金サイクルを見極めながら、常に資金繰りが安定するようにキャッシュフローの最適化が求められます。以下のような点を考慮して、キャッシュフローの最適化を図りましょう。

  • 売掛金の回収期間の短縮
  • 買掛金の支払い条件の最適化
  • 在庫管理の効率化

予算管理とKPI設定

成長していたとしても、正しく自社の利益構造を把握し、どのような箇所に資金や人的リソースを投下すれば良いかを把握していなければ、成長を持続させることはできません。そのためには予算を策定し、主要な業績指標(KPI)を設定します。

KPIには、例えば以下のようなものを設定しますが、自社の事業の構造や状況によって適切なKPI設定を行う必要があります。また、KPIは設定するだけでなく、月次や場合によっては週次や日次でのモニタリングを行い、想定どおりの推移をしているかを観察することが重要です。

  • 限界利益率
  • 新規獲得顧客数
  • 顧客獲得コスト(CAC)
  • サービス継続率、リピート率
  • 顧客生涯価値(LTV)

安定・拡大期におけるファイナンス戦略

安定・拡大期の特徴と課題

「安定・拡大期」は、企業が一定の市場シェアを獲得し、収益が安定する段階です。既存プロダクトやサービスにおいて一定の市場シェアを獲得し、安定した収益を生み始めている場合、その収益を活用して新規事業に投資をはじめる企業が多くあります。これは、プロダクトやサービスのポートフォリオを多角化させ、経営を安定化させると同時に、新たな市場に参入することで更なる成長を獲得するために行われます。このフェーズでは、以下のような課題が生じます。

  • 既存のプロダクトやサービスの成長率の低減
  • 新規事業への挑戦と失敗
  • 組織の硬直化やイノベーションの停滞

資金調達と資本政策

株式公開(IPO)の検討

安定・拡大期においては利益が安定して創出されており、事業の持続性も十分に見込まれることから、企業の信頼性向上と大規模な資金調達を目的に、株式市場への上場を検討できる場合があります。

【メリット】

  • 大型の資金調達が可能
  • 企業のブランド価値と信用力の向上
  • 資本市場へのアクセスの獲得

【デメリット】

  • 上場維持にかかるコスト
  • 情報開示義務と経営の透明性要求
  • 経営の自由度の制限

財務戦略の最適化

ガバナンス体制の整備

成長フェーズを乗り越え、規模も拡大した組織において適切なガバナンス体制を構築することは、継続して安定した事業運営を行う上でとても重要です。適切なガバナンス体制がない企業においては、不正や不祥事、インシデントが頻発してしまうことや、経営判断が適切に下せないといった状況に陥る可能性があります。必要に応じて、以下のような対策を講じます。

  • 取締役会の機能強化
  • 内部監査・監督体制の構築
  • 社内教育・コンプライアンス教育の徹底
  • 適切なカルチャーの醸成と浸透

業務プロセスの最適化

売上の成長率が低下してきた場合には、業務の効率化によって生産性を高めコストを低減させることで利益率を高める施策が有効です。また、業務効率化によって発生した追加的なリソースを新規事業や新たなプロダクト開発に充てることができます。

業務効率化においては、まず現状の業務フローにおける課題を把握し、その課題の根源要因を適切に特定することで、表面的ではなく本質的な改善につなげることが重要です。

  • 業務フローと権限の見直し
  • 業務標準化とマニュアル化
  • システムの導入と入れ替え
  • 必要に応じたアウトソーシングの活用

人材育成と組織文化の醸成

社内の人材を育成し、人材の質を高めることで顧客への提供価値を高め、より効率的な事業運営を行うことができます。また、育成に加えて、適切な組織文化(カルチャー)を醸成することで前述のガバナンスの向上にもつながるほか、従業員の士気の向上や判断基準の明確化、従業員の定着率の向上、採用時のミスマッチの減少などの効果が期待できます。

  • 教育研修プログラムの充実
  • キャリアパスの明確化
  • オープンなコミュニケーション環境の構築
  • ミッションやバリューの組織への浸透

M&A戦略の推進

既存事業に加えて、新規の事業やプロダクトを獲得する手段としてM&Aは有効です。M&Aは他社が築いた顧客基盤や技術・ノウハウを買収という手段によって一気に獲得する手段であり、自社で新規事業として行う場合にかかるであろう時間や不確実性を資金で解決する手段です。ただし、M&Aにおいては買収先の企業とのカルチャーマッチや明確な目標設定、互いの事業に対する深い理解とそれに基づくシナジー仮説などが必要です。十分な検討を経ないままに実行されるM&Aは多くの場合に期待したような価値を生み出さず、場合によっては自社の本業を揺るがすような事態となりかねません。そのため、慎重かつ徹底的な検討と検証が必要です。

  • シナジー効果の追求
  • 市場シェアの拡大
  • 顧客基盤、技術や人材の獲得

衰退・再成長期におけるファイナンス戦略

衰退期の特徴と課題

「衰退期」は、市場環境の変化や競合他社の台頭により、売上や利益が減少する段階です。既存プロダクトの競争優位性や差別化が失われはじめ、価格競争に巻き込まれることで収益性の悪化や顧客の離反を招くような状況が起こります。このフェーズでは、以下の課題が生じます。

  • 事業モデルの陳腐化
  • 収益性の低下と資金繰りの悪化
  • 従業員のモチベーション低下

資金調達と財務再建

既存銀行からの追加支援

衰退期は成長性や収益性にかげりが見えているタイミングであり、資金繰りに支障をきたしはじめている場合もあります。こういった場合においても、既存の借り入れを行っている銀行に対して追加の支援を申し込むことは有効です。

デットリスケジューリング

債務の返済条件を見直し、資金繰りを改善します。

  • 返済期限の延長交渉
  • 金利の引き下げ要請
  • 債務の一部免除や株式化

エクイティでの資本増強

事業が思うようにうまくいっていないタイミングでも、エクイティ(株式)によって出資してくれる投資家は存在します。こういったエクイティの資金を活用することで傷んだ財務基盤を回復し、再成長に向けた必要な原資を獲得できます。

  • 事業再生ファンドからの資金調達
  • 既存株主への増資要請
  • 優先株や劣後ローンの活用

再成長への戦略

事業再構築とリストラクチャリング

「再成長期」のフェーズでは、事業において多くの非効率が発生していることがあります。余剰人員や非効率な人員配置、硬直的な意思決定フロー、冗長な業務プロセスなど、非効率な事業運営状態を解消し、事業を再構築する必要があります。

  • 既存事業での大胆なコストカット
  • 事業部や間接部門などの事業構造の変革
  • 不要な資産や一部事業の売却

新規事業・イノベーションへの投資

新たな成長機会を模索し、未来への投資を行います。これらの投資は衰退期に突入する以前から実行されているべきものであり、衰退期に急に投資を始めたとしても、なかなかうまくいくものではありません。そのため、既存事業の衰退を見据えて、早期から新規事業の芽をつくる作業をしていく必要があります。

  • 新規事業への研究開発投資
  • オープンイノベーションの推進
  • スタートアップ企業との提携

組織改革と人材マネジメント

重複している機能やリソースを見直すことで組織構造を簡素化し、意思決定のスピードを上げます。事業を継続して行うなかでどうしても発生する組織の肥大化や複層化を見直し、成長フェーズにおける意思決定や施策実行のスピードを取り戻します。

  • 部門の統廃合
  • フラットな組織への移行
  • 役職や階層の見直し

まとめ

企業は、そのライフサイクルに応じて異なる課題と機会に直面します。成長期には積極的な投資とリスクマネジメント、安定・拡大期には効率化と新たな成長戦略、衰退・再成長期には再建策とイノベーションが求められます。

各ステージで適切なファイナンス戦略を策定し、財務管理と組織運営を最適化することで、企業は持続的な成長と発展を実現できます。ITエンジニア出身の起業家にとって、技術力や革新的なアイデアは強力な武器ですが、それを支える経営基盤と財務戦略がなければ、真の成功は得られません。本連載を通じて、起業家の皆さんが各成長ステージで直面する課題を乗り越え、持続的な成長を遂げるためのヒントを提供できたことを願っています。

おわりに

企業経営は常に変化と挑戦の連続です。しかし、その中で適切な戦略と意思決定を行い、柔軟に対応していくことで、どんな困難も乗り越えることができます。ファイナンスはその重要な要素の1つであり、企業の方向性を大きく左右します。

これからも学び続け、時代の変化に適応し、新たな価値を創造していく皆さんの挑戦を心から応援しています。本連載がその一助となれば幸いです。

 

※ 記事はこちらからもご確認いただけます。

https://thinkit.co.jp/article/37719

Fivot「Flex Capital」はスタートアップ企業様向けの新たなデットファイナンスを提供します

Fivotは、スタートアップ企業のためにデットファイナンスである「Flex Capital」を提供しています。審査は最大2週間で最大3億円の融資が可能です。

詳しい情報は以下からご覧ください。

Grow With Us

30分の無料相談

その他のお問い合わせもこちらからお願いします