「マイルストーン投資に関する覚書について」CFOが語るシリーズvol.8

目次
CFOが語るシリーズ、第8回目
このシリーズは、CFOのキャリアを目指される管理部・経理部人材の方や、まだCFOが不在の創業者・CEOに向けて、CFO人材の業務内容や普段考えていることに対して、理解促進を図るコラムです。
難しいスタートアップのファイナンスの問題に対して、CFO経験豊富な方に登場していただき、実際におきた問題の解決方法や、なかなか学ぶ機会の少ないファイナンスの手法などについて、記事をアップしていきます。
第8回コラム記事担当
- Sさん
CFO歴:本業2社10年、アドバイザー3社
経験ステージ:シリーズA〜IPO
経験業種:SaaS,モビリティ,教育など
略歴:金融機関勤務の後、スタートアップに転職、複数社で約10年財務・会計、IR等中心にコーポレート領域全般をカバー、IPOも過去経験している
今回は、ここ最近であった投資家とマイルストーン投資に対する覚書を締結しているCaseについてお話しします。
S社ではプレシリーズAラウンド時にリードVCと、次回のシリーズAラウンドにおいて、両社で合意したマイルストーンが達成できれば出資するとする「マイルストーン投資に関する覚書」を締結していました。私は、そのプレシリーズAラウンドへのリードVC出資後に、主にエクイティ調達後のデット調達の推進をミッションとしてサポートに入ることになりました。今回はこのマイルストーン投資の覚書があることによるメリットとデメリットについて整理したいと思います。
- <Case: S社>
- ステージ:プレシリーズA~シリーズA
- 業種:ハードウェア系のベンチャー
「マイルストーン投資に関する覚書」について
そもそも「マイルストーン投資の覚書」と聞いてもイメージが湧かない方もいるかと思います。その主な内容を下記にまとめてみました。
また、一言でマイルストーンといっても、短期(数か月)、中期(1~2年)、長期(5年~10年超)などの時間軸があります。今回の覚書で定めたマイルストーンは、次回の資金調達までの期間を約1年後とし、中期の時間軸で定めたものになります。
<マイルストーン投資に関する覚書の内容>
- 1. 次回ラウンド概要
- 株式の種類(普通株、シリーズXの優先株等)
- 出資の想定時期(今回のケースでは覚書締結から約1年後)
- 出資金額(レンジ又は最大投資額)
- 株価(上限)
- 発行株数(上限)
- 2. マイルストーンの内容
- 項目(プロダクトの開発、採用、研究成果、事業進捗等投資家と合意したテーマ)
- テーマに沿った目標と設定した目的や背景
- 内容の詳細(※テキストに落とす際には要注意)
- 達成目標の時期
この覚書に定めた内容が達成できた場合には、予め合意した発行条件で出資を(原則)約束するものになります。ベンチャー企業にとっては、次回ラウンドについてもリード投資家のコミットが得られているため、非常に意味があると思います。
覚書のメリットとデメリット
次にそのメリット、デメリットについてまとめてみました。
メリット | ① 経営チームとして、条件クリア時に出資が得られるという精神衛 生上の安心感、経営上の意思決定のスピードアップ ② その他フォロー投資中心のVCやCVCなどからも出資が集めやすくなる ③ 金融機関からの融資にもつなげやすい |
デメリット | ① マイルストーンが達成できないと次回ラウンドの出資につながらないという難しさ ② マイルストーン投資の達成に重きを置いた議論となりがちで、事業環境変化によりマイルストーン達成の重要性が下がった場合などで投資家との議論が必要となる ③ 次回ラウンドの条件が予め固まっているため、事業進捗にあわせ更にバリュエーションを上げたい場合には、新たなり―ドVCを探さないといけない可能性がある |
上記について、それぞれ補足していきます。
メリットの補足
①経営チームの意思決定がしやすくなる
経営チームとして、目指すべき目標が明確になることで、次の資金調達を視野に入れながら、事業に集中できるメリットがあります。十分な資金を調達したベンチャー企業は別ですが、多くのベンチャー企業では研究開発や事業上の投資について、資金繰りや資金調達の見通しを考慮しながら意思決定を行う必要があるため、この安心感は大きな意味を持つと思います。
②フォロー投資が集めやすい
S社はプレシリーズAラウンドで、エクステンションラウンドを実施しましたが、リードVCとのマイルストーン投資の覚書が信頼材料となり、他の投資家からも高評価を受けることができました。
③金融機関からの融資に結びつきやすい
実績として、新規で地場の金融機関から新規のプロパー融資を獲得しました。また、数か月前に断られていた保証協会付き融資にも結び付きました。
金融機関の新規融資の場合、公庫や保証協会付き融資等は別として、いわゆるプロパー融資の場合、多くの金融機関が短期融資から取引実績を積みながら、その次に長期融資へとつなげていきます。短期融資の場合は借入期間中の資金繰りが回るかという点は必須の確認事項になりますが、資金繰りに不確実性のある将来のエクイティ調達をなかなか織り込んでもらえないという課題もあります。シリーズA前後のベンチャー企業の場合、そのほとんどが、どこかでエクイティ調達を実施しないと資金繰りが回らない状態で、そのために各社が資金調達に奔走していますが、将来的な資金調達の蓋然性を示すことが非常に難しいものです。
そんな中、S社ではマイルストーン投資に対する覚書に記載されている項目に対する達成状況・進捗状況を具体的に示し、概ね達成が出来ており、残っていた課題も解消見込みがあることを説明し、エクイティ調達の蓋然性が高いと示すことが出来ました。
以下のイメージ図をもとにさらに補足しますと、24年8月の借入の審査時点ではエクイティ調達に関する投資契約等が締結出来ていない段階のため、通常は24年10月の増資を資金繰りに織り込めず、審査が通りません。しかし、上記のように出資の蓋然性が高いことを説明し、融資に繋がりやすくすることが出来たというものです。
なお、新規融資を獲得した金融機関に初回訪問した24年5月のタイミングで既に覚書は存在していましたが、新規融資は断られており、同様に既存の取引銀行経由で申請をした保証協会付き融資も断られています。
24年8月にマイルストーンの進捗状況をまとめ、達成の蓋然性が高い状態であることを示した資料をもって再度相談したところ、受注状況や見込み案件も増加している等のプラス要因もあり、2件の融資に繋がりました。
以上のことから、覚書があれば必ず融資につながるものではないですが、総合的な融資判断の中のプラス材料として評価いただけるだろうと考えています。
デメリットの補足
①マイルストーン未達成時のリスク
研究開発の進捗やプロダクト開発などの進捗をマイルストーンとして設定する場合に、目標とした成果が出ない場合、覚書があることでより次回ファイナンスの難易度が上がる可能性があります。
②環境変化により、設定マイルストーンの事業上の重要度が低くなる
例えば、リリースしたプロダクトが、自社で想定していた業界や顧客像とは別の業界で活用でき、その用途で売上が増加していくような状況となった場合、マイルストーンとして設定している項目自体は事業拡大において重要性が低くなっていく可能性があります。
このようなケースにおいても、投資家側がマイルストーン投資の覚書内容に重きを置いてしてしまう場合があり、ベンチャー企業側はより時間をかけて、その状況の変化を丁寧に説明し、設定したマイルストーンそのものの取り扱いにつき、協議を行う必要があります。
③次回ラウンド条件が固定化される
次回ラウンドのバリュエーションをリード投資家とあらかじめ合意していることで、事業の進捗が想定以上に好調であっても、それ以上のバリュエーションを設定することが難しくなり、場合によっては別のリード投資家を探す必要が出てくる可能性があります。
最後に
覚書があることで次回の資金調達の蓋然性は高まりますが、投資家の思惑や外部環境の変化など含め、資金調達においては「着金するまで何が起こるかは分からないもの」と認識して、慢心しないことが重要です。
次回ラウンドの覚書を締結していただける投資家に感謝することはもちろんですが、必ずしも次回ラウンドがコミットされているわけではないため、投資家とは常に丁寧なコミュニケーションを積み重ねていくことが重要です。
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