TOP マガジン 「決算前後の対応ポイントについて-前編-」CFOが語るシリーズvol.4

「決算前後の対応ポイントについて-前編-」CFOが語るシリーズvol.4

目次

CFOが語るシリーズ、第4回目

このシリーズは、CFOのキャリアを目指される管理部・経理部人材の方や、まだCFOが不在の創業者・CEOに向けて、CFO人材の業務内容や普段考えていることに対して、理解促進を図るコラムです。

難しいスタートアップのファイナンスの問題に対して、CFO経験豊富な方に登場していただき、実際におきた問題の解決方法や、なかなか学ぶ機会の少ないファイナンスの手法などについて、記事をアップしていきます。

-前回、前々回と資金調達がテーマとしましたが、CFOは資金調達だけでなく幅広く業務に携わります。Vol4では今回は特に忙しくなりがちな「決算前後の対応のポイント」について解説頂きます。

第4回コラム記事担当

  • Sさん
    CFO歴:本業2社10年、アドバイザー3社
    経験ステージ:シリーズA〜IPO
    経験業種:SaaS,モビリティ,教育など
    略歴:金融機関勤務の後、スタートアップに転職、複数社で約10年財務・会計、IR等中心にコーポレート領域全般をカバー、IPOも過去経験している

今回は決算前後の対応ポイントについて、解説しようと思います。全体スケジュールについて、ミドル・レイターステージあたりまで網羅的に記載しており、シード・アーリーステージの企業の場合は、ここまでカバー範囲はないと思いますが参考にしてください。このVol4では、主に決算3か月前から、決算日までのスケジュールを記載、次回のVol5では決算日以降、株主総会終了までの3か月スケジュールの説明をします。

決算前後6か月のスケジュール概要

まずは、決算前後6か月のスケジュールの主要項目をスケジュールに落とし込んでみました。下表に記載した業務以外にもCEO、CFOには株主や金融機関との日常的なコミュニケーション、各メンバーからの様々な相談事項、場合によってはトラブル対応、ミドル以降のステージでは上場準備関連の対応などで監査法人や証券会社等とのコミュニケーションも発生します。

また資金調達のデューデリジェンス対応なども並行して行われると思います。全部1人でカバーする必要はありませんが、社内外での役割分担を考えていくうえで、たたき台に使っていただければと思います。

<決算対応のスケジュール(例)>※3月末を決算月として作成

経営企画 財務 経理 人事・組織 通常業務 上場準備
1月上旬

1月中旬

1月下旬

予算方針作成

予算協議

予算協議

着地BS予測

減資検討

着地予測PL

着地予測PL

賞与検討

組織課題整理

組織課題整理

組織検討

各種承認

取締役会

給与・月末振込

定例MTG
2月上旬

2月中旬

2月下旬

予算協議

予算まとめ

予算まとめ

株主総会招集株主総会(減資) 賞与予算検討

会計・税務

論点協議

人員計画

人員計画

人事評価準備

各種承認

  取締役会

給与・月末振込

定例MTG
3月上旬

3月中旬

3月下旬

予算事前説明

予算事前説明

予算決議

減資対応 着地予測修正

監査対応

人事評価準備

組織決定

全社集会準備

各種承認

取締役会

給与・月末振込

定例MTG
4月上旬

4月中旬

4月下旬

全社予算説明

 

   

減資登記

決算・予算IR

監査対応

監査対応

監査対応

全社集会開催

人事評価

人事評価

各種承認

取締役会

給与・月末振込

定例MTG
5月上旬

5月中旬

5月下旬

予実分析 決算・予算IR

決算・予算IR

消費税納税

監査対応

個別注記作成

総会議案検討

昇給決定

給与へ反映

評価FB

各種承認

取締役会

給与・月末振込

定例MTG
6月上旬

6月中旬

6月下旬

予実分析 法人税納税 招集通知準備総会招集

総会開催

各種承認

   取締役会

給与・月末振込

定例MTG

 

決算3ヶ月前〜決算までの各1ヶ月ごとの詳細

今度は、上図をもう少し詳細にしていきたいと思います。

決算3か月前~

経営企画部門

  • 来年度の予算作成開始、経営陣で大枠の方針を決定、予算フォーマットの作成
  • 各部門と予算協議、予算フォーマットの入力依頼

財務・経理部門

  • 経営企画部門と連携し、年度末の着地BSとPLを整理
    • 着地予測と共に、予実差異の分析なども行う
  • 期末BS次第では減資するかどうかの議論を税理士等交えて検討
  • 業績と連動する賞与がある場合、賞与総支給額も確認

人事部門

  • 経営陣と次年度に向けた組織課題の整理、人事評価スケジュールも調整開始

決算2か月前~

経営企画部門

  • 各部門からの予算フォーマット回収・とりまとめ、経営陣と協議
    • ※投資契約上、新事業年度の1か月前に来年度予算提出が必要な場合は今月中要提出

財務・経理部門

  • (減資が必要な場合)法務部門と連携して株主総会の招集と開催
  • 期末決算に向けて監査法人や税理士との協議(特に赤字会社で決算時に消費税の還付金がある場合は、早めに決算締めれるように税理士と論点協議) 

人事部門

  • 経営陣と組織検討、予算と連動する人員計画の作成
  • 人事評価の進め方・スケジュールの詰め

法務部門

  • 減資等を行う場合には、減資効力発生日の1か月前には株主総会の決議が必要になるので、2月中に減資のための株主総会を実施する(2月中旬に株主総会招集が必要)

決算1か月前~決算日まで

経営企画部門

  • 取りまとめた予算を取締役会で決議、既存株主への説明対応(株主が多いと予算説明だけでも10社~20社と個別MTGが必要で2週間くらいIR週が必要。社長・CFOのIR用のスケジュール枠を要確保)
    • ※投資契約上、新事業年度の開始までに来年度予算提出が必要な場合は今月中要提出

財務・経理部門

  • (減資を行う場合)法務部門と連携し減資関連の対応
  • 期末決算に向けた準備資料(決算スケジュールの作成、期末の現金確認、残高証明書発行準備、固定資産の確認等) 

人事部門

  • 経営陣と協議し新年度の組織および予算と連動する人員計画の確定
  • (※組織改定にあわせた承認プロセス等の調整をITや経理関係と連携図る)
  • 人事評価のスケジュール議論も検討進める
  • 期初の全社ミーティングのアレンジ、経営陣と発表内容の合意

法務部門

  • (減資を行う場合)減資の効力発生後の登記手続やHPや各種資料への修正指示

決算業務のテーマ別の解説

ここまでは、決算前3か月から決算までの全体スケジュールのご説明でしたので、

テーマごとに詳細にご説明します。

1.事業計画

まずは事業計画についてです。今回は事業計画の作り方についてはビジネスモデルも違うとそれぞれ異なるので今回は割愛して、全体のスケジュールにおける留意点を中心にまとめました。

まず、上場準備など開始していて予算規定があるのであれば、予算規定を改めて確認してください。必要なプロセスを経ていない、必要な計画を作成していないなどは後々、内部監査などでも指摘になることもあります。また経験上規定に則ったプロセスで作ることで、後々の資金調達に必要な提出資料などにも活用できます。

<必要な計画例>

  • 1、PL関連計画
    • (1)売上計画、原価計画
    • (2)人件費除いた経費計画
    • (3)採用計画、人件費計画
    • (4)設備投資、研究開発計画
    • (5)税金等の仮計算
  • 2、BS関連計画
    • (1)売掛金、買掛金、未払金などの増減
    • (2)減価償却なども踏まえた、固定資産の増減
    • (3)その他投資活動があれば
  • 3、キャッシュフロー計画
    • (1)借入計画(借入返済予定表)と資金繰
    • (2)増資の計画
    • (3)税金等の支払、受取

計画作成期間ですが、次年度予算含め3~5年(EXITのタイミング次第では5年)で作成するのが一般的ですが、ポイントして期末の着地見込含む過去3年のBS,PLも同じフォーマットで出せるようにしておきましょう。計画作成者が変わったりで毎年違うフォーマットを使っていると、過去の推移がうまくつながらないことも多く、資金調達時のデューデリジェンス対応でかなりの工数を使ってしまうことがあります。

実績
(前々期)
実績
(前期)
着地見込
(当期)
予算
(来期)
計画
(来々期)
計画
(3年後)
計画
(4年後)
計画
(5年後)

<計画作成プロセス>

  • 1月上旬から中旬:経営陣で予算方針を決定していく
  • 1月後半から2月前半:各部門リーダーとの協議(各部門からの予算積上げ)、人員計画や開発・投資計画などは全体のロードマップと必要な金額などのすり合わせ
  • 2月中旬~下旬:全体のとりまとめと、各部門との調整
  • 3月:株主等のステークホルダーとの調整、予算の最終決議

プロセスについてですが、経験上、経営陣のみで協議した計画数値(Valuationを正当化するために作ったような事業計画数値)のほとんどは未達になっています。

各部門から積み上げた計画数値とのすり合わせを丁寧に行ってほしいですし、そうすることで各部門のメンバーと合意の取れた計画となります。メンバーも納得感がある形を自分の予算数字を担うことが出来ます。

計画未達が続くと、投資家・金融機関なども会社説明を信じてくれなくなりますし、社内のメンバーも数字のプレッシャーから期末の押込営業などに走ったり、そもそもの計画未達でも仕方ないという負け癖がついてしまうことにもなるのでお勧めしません。

また、新年度から大きく組織体制変更するにも関わらず、予算だけ旧組織のまま作成すると、新年度の予実差異分析の際に部門が変わったことによる影響が通年で出てしまい、その差異の説明が必要になります。例えばこれまで販管費扱いとしていた部門を新年度以降すぐに原価部門などに変えると、売上総利益が大きく変わり、予実差異の分析を投資家説明する際に毎回その理由を説明する必要が出てしまいます。とはいえ、ベンチャーでは常にアップデートする必要もあります。必要に応じてPJチームを組成し、組織変更や人事異動を伴わなず機動的な人員配置を行うのも1案かと思います。

2.減資について

減資については、税務面でのメリットも大きいので必要に応じて検討したいところですが、いきなり減資しようとしてもすぐには出来ません。最低でも3か月前くらいから税理士なども含めスケジュールの検討をしておきましょう。今回は期末に減資を行うというスケジュール例を記載しましたが、期中の資金調達を行い、期末にエクイティによる資金調達をしないことが判明した時点で減資について検討いただくのが良いと思います。

<スケジュール例>

  • 1月上旬~下旬:定款で自社の公告の方法を確認する。後述のダブル公告をお勧めします。
  • 1月下旬~2月上旬:株主総会の招集通知作成・弁護士チェック等
  • 2月中旬:株主総会の招集通知発送(※1 非公開会社の場合株主総会の1週間前、公開会社の場合株主総会の2週間前までに発送)
  • 2月下旬:株主総会開催し減資の決議、公告の実施
  • 2月下旬~3月下旬(1か月)
  • 3月下旬:減資の効力発生日、登記対応(2週間以内)

※1招集通知の発送期日について
あくまで一般的な発送期日を記載しておりますが、上記以外にも非公開会社で取締役会を設置しない会社の場合は、定款で定めることにより1週間を下回る期間とすることができるなど、会社の類型によって発送期日が異なるため法務担当・顧問弁護士などに確認しながらスケジュール作成して頂きたいです。

※2会社法上の公開会社、非公開会社について
非公開会社は定款で株式について譲渡制限の定めを設けている会社、公開会社は定款で株式の譲渡制限の定めをなくした会社を言います。何らかの事由により上場申請を取り下げたなどで、株式上場できなかった場合には会社法上は定款に株式の譲渡制限の定めがない公開会社として取扱われますが、株式市場には上場していない状態になることがあります。実際にこの状態になった経験もありますのでまたいずれお話しできればと思います。

<ダブル公告> 

減資の際には、官報への公告と共に、債権者保護のために、債権者(借入している金融機関や仕入先等)に催告書を送付する手続(催告通知)が必要ですが、この手続きは非常に煩雑です。

ですが、個別の取引先への催告通知は、官報への公告に加え、定款に定める公告方法で公告することにより、省略することが認められています。これを通称「ダブル公告」と言います。

この「ダブル公告」をするには、公告の方法を、官報ではなく、電子公告や日刊工業新聞のような日刊新聞紙にしておく必要があります。

この公告を官報から電子公告などにするには定款変更が必要で「株主総会による特別決議」が必要です。(※特別決議:議決権の過半数の株主が出席、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要)

創業当初に定款にて公告の方法を官報と定めている場合は、事前に株主総会する際に公告の方法を電子公告等に変更しておくとよいと思います。

※実際に減資を行う際には、顧問弁護士・税理士等と連携図りながら進めてください。

3.期末のBS、PLの着地予測

今回は一定程度、月次業績が集計されており、大よその着地の見通しが立っている前提で、次年度の事業計画などのテーマを先に記載していますが、もし月次業績等の集計が数か月遅れている状態であれば、まずは12月までの試算表の数値を集計することから始めましょう。もしご自身もしくは社内メンバーが伝票等を貯め込んでいる場合、速やかに整理し経理担当や顧問税理士等に渡してください。

そのうえで、着地見込みの予測は出来るだけ精度よくやっておきましょう。これはなぜかというと、事業計画作成時に、勘定科目によっては積上げ金額ではなく、経営陣で定めた予算方針にあわせて、前期比120%等の概算で計算することがあります。基礎となる期末PLの予測値が実績値と大幅に乖離すると、結果2年後・3年後の事業計画数値も大きな乖離が発生します。

また、業績に連動して賞与出す企業であれば、賞与の原資がいくら位になるのかきちんと精査しておきましょう。私は過去に期末の着地PLの予測を大きく外してしまい、会社全体で約2,000万円ほど賞与予算が少なくなり、当時の従業員が約100名社員だったので、その年の賞与が1人あたり約20万円賞与が減ったというミスをしたことを今でも反省しています。

さいごに

決算前後の業務解説の前編をお送りしました。
今後、CFOを目指される方や、まだCFOを迎えられていない経営者の方の参考になれば幸いです。

次回、vol.5では後編(決算日以降、株主総会終了までの3か月スケジュール)をお送りします。

今後もCFO経験者が語るシリーズとして、経営者・CFOにとって役立つコンテンツを提供していきます。

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