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「コンティンジェンシープランについて-前編-」CFOが語るシリーズvol.6

目次

CFOが語るシリーズ、第6回目

このシリーズは、CFOのキャリアを目指される管理部・経理部人材の方や、まだCFOが不在の創業者・CEOに向けて、CFO人材の業務内容や普段考えていることに対して、理解促進を図るコラムです。

難しいスタートアップのファイナンスの問題に対して、CFO経験豊富な方に登場していただき、実際におきた問題の解決方法や、なかなか学ぶ機会の少ないファイナンスの手法などについて、記事をアップしていきます。

第6回コラム記事担当

  • Sさん
    CFO歴:本業2社10年、アドバイザー3社
    経験ステージ:シリーズA〜IPO
    経験業種:SaaS,モビリティ,教育など
    略歴:金融機関勤務の後、スタートアップに転職、複数社で約10年財務・会計、IR等中心にコーポレート領域全般をカバー、IPOも過去経験している

コンティンジェンシープラン(Contingency Plan)について

今回はベンチャー企業におけるコンティンジェンシープラン(Contingency Plan)についてお話伺いたいと思います。

まずはじめに、コンティンジェンシープランを簡単に説明しますと、緊急事態が発生した際に、事業への影響を最小限にとどめるために実施する施策や行動指針を記した計画のことを言います。

ベンチャー企業におけるコンティンジェンシープランは、緊急事態=予定していた売上や代金回収ができなかったり、資金調達が未達になったことで、資金繰りの懸念がある状態に陥った時、どのように企業を存続させていくか、対応策とその発動条件を定めた計画という意味で基本使われます。

私自身、最初に勤めたベンチャー企業は、決算は黒字が続いており実質無借金経営だったため、VC等からの資金調達も必要とせず、資金繰りに困るとことがなかったのですが、以降数社は基本的に赤字のベンチャーだったので、資金繰りが非常にタイトな状況も何度も経験しています。

今回は、ランウェイが6か月を切った状況下で、株主から「至急、コンティンジェンシープランを作成してほしい」と言われたら、どのように対応するか?というような話をテーマにお話ししたいと思います。

なかなか大変な状況ですね。

そうですね。非常に緊張感・プレッシャーがある状況ですが、何度もこのような状況を経験しているので私自身、慣れてきているかもしれません。

それでは、具体的な事例を用いてお話していきたいと思います。

実際のケースについて(Case1)

それでは、具体的な事例を用いてお話していきたいと思います。

  • <Case1 A社>
    ステージ:シード~シリーズA
    時期:2023年春頃
    業種:ハードウェア系のベンチャー

<きっかけ>

支援先A社での話です。大手事業会社B社からの資金調達を実施、その後、開催された事業会社B社との定例ミーティングにおいて、「至急コンティンジェンシープラン(Contingency Plan)を作成してほしい」と言われました。

事業会社B社では毎月出資先企業に対するモニタリング会議を実施しており、その会議のなかで、A社のランウェイがB社出資時の想定よりも短く財務面で懸念があることが問題視され、上記の「至急、コンティンジェンシープラン(Contingency Plan)を作成してほしい」という話になったとのことでした。

B社の懸念したポイントは大きく2つで、

  1. 同時並行で進めていた投資家からの調達が結果的に見送りとなったこと。
  2. 製品開発が想定より長期化するリスクをモニタリング会議で指摘されたこと。

です。

実際にはB社からのエクイティ調達はできたものの、他の投資家からの出資が見送りになってしまったことで予定額が集まっておらず、ランウェイは4~5か月の状況でした。とはいえ、調達のパイプラインが全くないわけではなく、エンジェル投資家等からの一定の出資は過去から獲得出来ていて、投資家とのコンタクト数が確保できれば、ある程度の資金調達が出来る見込みもあったことや、B社からの資金調達のプレスリリースの効果もあり、投資家とのアポイントやデューデリジェンス対応も進めていたので、経営メンバーはB社の見立てほどは悲観シナリオではありませんでした。

このあたりは、投資家と経営メンバーで温度感が違うんですね。

そうですね。実際のビジネスの状況やそれぞれの立場や考え方の違いは当然あると思います。経営メンバーは、どうすれば上手くいくかをずっと考え日々の業務に取り組んでいるので、うまくいかない時の想定して欲しいというのは、意外と難しく感じる部分もあるかと思います。

ですが、コンティンジェンシープランを作成する中で、例えば、コスト削減プランでも、選択肢として難しいと思ってこれまで実施していなかった取引先との交渉も、視野を広げて実際に行動してみると結果につながることがあります。

コンティンジェンシープランの構造

資金繰りをどうするかということで大きくは以下の3つの施策を検討していきます。

  • 資金調達:資金調達や資産を売却することで現金を増やす
  • 支出削減:コスト削減により支払金額を減らす、支払期日を遅らせる
  • 入金を増やす:売上増により入金を増やす、入金期日を前倒しする、前受金で受領する

実際のケースがあったほうが分かりやすいと思いますので、以下に実際に作成したものをベースに一部修正を加えたコンティンジェンシープランを使ってご説明します。

<A社におけるコンティンジェンシープランの基本方針> 

前提として、ランウェイは成り行きベースで4~5か月の状況。資金調達については、エンジェル投資家等との継続アプローチしながら出来る限りランウェイを延伸しつつ、事業会社からまとまった額の資金調達を目指す。コスト削減についても人件費含めて可能な限り削減プランを用意し、特に人については、どのようなトリガーで、どこまで発動させるかは経営陣で慎重に検討しました。また自社プロダクト開発に従事しているエンジニア中心に一部受託案件対応により売上(現金を獲得)するプランも用意。

コンティンジェンシープラン①(キャッシュバーン800万→500万/月まで削減)

資金調達

  • (1)エンジェル投資家等のコミュニケーションについては複数のプラットフォーム活用しておりアプローチを継続、ランウェイの延伸は行う
  • (2)VCについてはこれまでの実績勘案、積極的アプローチせず。M&A仲介業者や資金調達系の複数のプラットフォームから、意思決定の早い中小企業のオーナーとのアプローチを増加
  • (3)従来より追加出資の形での支援は難しいと言われていたが、改めて既存の株主からの追加の支援についても改めて依頼

支出削減

  • (1)研究開発費:自社プロダクト開発の開発パートナーの契約解除(100万円/月)
  • (2)家賃:既存物件のオーナーへのオフィス減額交渉(30万円/月)と並行して、オフィス移転による家賃減少(50万円/月)もあわせて検討(退去に伴う一時費用は別途発生するため慎重に検討)
  • (3)人件費:一部従業員の退職(150万円/月)、経営陣の給与の削減
  • (4)その他:諸費用全般の見直しと値下げ等のお願い(30万円/月)

入金を増やす

  • (1)自社プロダクト開発の一部メンバーを案件受託にシフト、大手企業との受注案件

コンティンジェンシープラン①(キャッシュバーン800万→500万/月まで削減)の計画表
単位:百万円

    予想 予想 予想 予想 予想 予想 予想 予想 予想
    23/1月 23/2月 23/3月 23/4月 23/5月 23/6月 23/7月 23/8月 23/9月
本体売上 6.0       
本体原価 3.0   
売上総利益 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 3.0 0.0 0.0 0.0
販管費計 8.6 8.6 8.3 5.3 5.3 6.8 5.7 3.1 4.7
人件費 5.7 5.7 5.7 4.1 4.1 4.1 4.1 4.1 4.1
研究開発費 1.0 1.0 1.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
広告/マーケ費 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
賃料/水光熱費 0.9 0.9 0.8 0.8 0.8 2.3 1.2 ▲ 1.4 0.2
その他 0.9 0.9 0.8 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5
営業利益 ▲ 8.6 ▲ 8.6 ▲ 8.3 ▲ 5.3 ▲ 5.3 ▲ 3.8 ▲ 5.7 ▲ 3.1 ▲ 4.7
前月末現預金 21 17 19 20 15 10 6 0 ▲ 3
資金調達額 5 10 10 0 0 0 0 0 0
増資 5 10 5  
その他 5  
当月預金増減 ▲ 4 1 2 ▲ 5 ▲ 5 ▲ 4 ▲ 6 ▲ 3 ▲ 5
当月末現預金 17 19 20 15 10 6 0 ▲ 3 ▲ 8

 

コンティンジェンシープラン②(キャッシュバーン800万→300万/月まで削減)

コンティンジェンシープラン②では更なるコスト削減として、人件費を追加で削減し、キャッシュバーンを月300万円程度まで縮小するプランを作成。CTOなどが案件受託で当面の現金も稼いで更にランウェイを伸ばしながらその期間中に資金調達を実施するプランです。事実上休眠/Pivotに近い状態ですが、会社を存続することを優先にするプランとして最終段階のプランとして用意し、経営メンバーにも理解を得ました。

資金調達

  • (1)エンジェル投資家等のコミュニケーションについては複数のプラットフォーム活用しておりアプローチを継続、ランウェイの延伸は行う
  • (2)VCについてはこれまでの実績勘案、積極的アプローチせず。M&A仲介業者や資金調達系の複数のプラットフォームから、意思決定の早い中小企業のオーナーとのアプローチを増加
  • (3)既存の株主からの追加の支援についても基本感触としては難しい状況

支出削減

  • (1)研究開発費:自社プロダクト開発の開発パートナーの契約解除(100万円/月)
  • (2)オフィスについては:月20万円以下のシェアオフィスに移転、場合によってはオフィスは株主が保有する物件の間借りするプランも検討
  • (3)人件費:コアメンバー除く従業員の退職(300万円~/月)
    ※事実上CEOとCTOほか若干名の状態。退職メンバーはそれぞれ、個人で別会社からの業務委託等で収入は確保できそう。一定の資金調達が出来た時にタイミングが合えば再度A社に入社や業務委託でサポートする等も検討(※)
    ※実際には労務・法務面等の丁寧に確認が必要
  • (4)その他:諸費用全般の見直しと値下げ等のお願い(40万円/月)

入金を増やす

  • (1)自社プロダクト開発の一部メンバーを案件受託にシフト、大手企業との受注案件
  • (2)追加で、CTO等も自社プロダクト開発からいったん離れ、準委任などで確実に利益が出るかたちでの現金確保策を実施し、当面の資金を手当て

コンティンジェンシープラン②(ランウェイ800万円→300万円まで削減)の計画表
単位:百万円

    予想 予想 予想 予想 予想 予想 予想 予想 予想
    23/1月 23/2月 23/3月 23/4月 23/5月 23/6月 23/7月 23/8月 23/9月
本体売上 6.0       
本体原価 3.0   
売上総利益 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 3.0 0.0 0.0 0.0
販管費計 8.6 8.6 8.4 3.3 3.2 4.2 3.4 0.8 2.5
人件費 5.7 5.7 5.7 2.1 2.1 2.1 2.1 2.1 2.1
研究開発費 1.0 1.0 1.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
広告/マーケ費 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
賃料/水光熱費 0.9 0.9 0.8 0.8 0.8 1.8 0.9 ▲ 1.6 0.0
その他 0.9 0.9 0.9 0.4 0.4 0.4 0.4 0.4 0.4
営業利益 ▲ 8.6 ▲ 8.6 ▲ 8.4 ▲ 3.3 ▲ 3.2 ▲ 1.2 ▲ 3.4 ▲ 0.8 ▲ 2.5
前月末現預金 21 17 19 20 17 14 12 9 8
資金調達額 5 10 10 0 0 0 0 0 0
増資 5 10 5  
その他 5  
当月預金増減 ▲ 4 1 2 ▲ 3 ▲ 3 ▲ 1 ▲ 3 ▲ 1 ▲ 2
当月末現預金 17 19 20 17 14 12 9 8 6

 

プラン検討後の結果について

プロダクト開発からPivotして受託にするプランも検討されたんですね。実際にはどうなったのでしょうか?

そうですね。結論としては資金調達が予定より多少遅れたものの、無事2億円の調達ができ、当面のランウェイを確保、資金繰り懸念は解消されました。

また、コスト削減も一歩踏み込んで交渉したことで、結果的に家賃減額にもつながりましたり、大手企業からの受託案件による売上も出来たりと、結果につながった部分も多くありました。コンティンジェンシープランを作成・実際にアクションする意味があったと思います。ただ、結果的に実行はしませんでしたが、一緒に働くメンバーのリストラプラン等を作るなどは相当難しい部分があり、苦しかった部分も多かったです。

<実際の結果>

資金調達

 → 保守的に織り込んでいなかったが4-6月で約2億円の調達が無事できた。

  1. エンジェル投資家等のコミュニケーションは継続、4-6月で1,000万円の調達実
  2. 資金調達系のプラットフォーム経由でコンタクトした事業会社から1億円の資金調達、それとは別に紹介などから9,000万円の資金調達を実施

支出削減

 → 約50万円弱/月のコスト削減

  1. 既存のオフィスのオーナーのご厚意で、家賃が約半額になり30万円/月の削減
  2. 自社プロダクトの開発パートナーも受託案件にアサイン。売上原価サイドで稼働
  3. その他:諸費用全般の見直しと値下げ等のお願いにより15万円/月の削減
  4. 人件費については、なるべく手を付けたくなったので退職等は発生せず。

入金を増やす

 → 大手企業との受託案件によりエンジニアリソース投入したため、実質2か月程度自社プロダクトの開発はストップしたものの、受託案件そのものは無事終了。

<まとめ>

今回のケースでは、結果的に無事資金調達も出来、コスト削減にもつながりました。交渉そのものは非常に苦しい交渉が多く、当然うまくいかないことのほうが多いのですが、何かしら結果が返ってくるという部分はお伝えできればと思います。また経営メンバー(特に創業者)の意向によりM&Aによる売却(事業引継)を選択肢から排除しましたが、本来はM&Aも選択肢に入れても良かったと思います。

Case1は比較的アーリーのステージにつき、アセットも少なく取り得る選択肢が限られていたと思うので、次回はミドル・レイターステージの企業で、保有のアセットが多く、資金調達と並行してM&AによるEXITも検討進めるなどいろいろと試行錯誤したCaseをご紹介しようと思います。

さいごに

コンティンジェンシープラン解説の前編をお送りしました。
今後、CFOを目指される方や、まだCFOを迎えられていない経営者の方の参考になれば幸いです。

今後もCFO経験者が語るシリーズとして、経営者・CFOにとって役立つコンテンツを提供していきます。

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