「酒造り」から「世界戦略」へ──“現場”と“金融”をつなぐ、RiceWineの資本戦略

今回は、CFOの長久保敦志さんへのインタビューを通じて、「ベンチャーデット」「Flex Capital Invoice」など、多様な資金調達手段の活用実態と、それによって可能になった経営判断、さらに今後の資本政策と金融機関への期待について、リアルな声を紹介します。
目次
- 無形から有形へ。“ものづくり”と海外展開に挑むCFOの決断
- 現在のRiceWineはどこまで来たのか?——事業フェーズと強み
- 自社製造がもたらす「資金負担の重み」、どう乗り越えたか?
- 成長と黒字を両立するには——出店と海外展開で見据える次のステージ
- なぜFlex Capitalを選んだのか?——CFOが語る意思決定の背景
- 「審査の速さとシンプルさ」で他社を圧倒。Flex Capitalの第一印象は?
- 資金繰りの柔軟性が未来を変える──スタートアップが選ぶ“第三の選択肢”
- 「資金を入れる」だけでは足りない——戦略で選ぶ、これからの資本政策
- 資本戦略の鍵は“タイミングと対応力”——金融機関に求める真の役割
- さいごに
無形から有形へ。“ものづくり”と海外展開に挑むCFOの決断
ーー長久保さんはどういったきっかけでRiceWineに参画されたのでしょうか?
もともと代表の酒井とはリクルート時代の知り合いで、最初は業務委託という形でRiceWineを手伝っていました。その後、私自身がRiceWineが所在する小田原に引っ越すことになり、ちょうどそのタイミングでRiceWine側でも資金調達が完了したことから、「ぜひうちに来てほしい」と声をかけてもらい、正式にジョインすることになりました。
それまで、リクルートで12年、人材系のベンチャーで4年ほど働いており、ずっと無形商材を扱うビジネスに携わってきました。そうした経験を経て、「モノがあるビジネスっていいな」と感じるようになっていたんです。
また、小田原に来る直前にオーストラリアを旅行した際、ランチが1人4,000円くらいすることに驚いて、「この物価の差は何だろう」と考えさせられました。その時に、これからの時代は日本の良いモノを海外展開し、外貨を稼いでいく必要があると実感しました。
そういう意味でも「ものづくりの会社」であり、「日本酒を海外で売る」という明確な戦略を持っているRiceWineのビジネスモデルが、自分の考えややりたいこととぴったり重なっていて、自然な流れで参画することを決めました。
- 長久保敦志 / 株式会社RiceWine
- 2007年に株式会社リクルート入社後、経理財務を経て、ホットペッパービューティーの中長期戦略立案、複数の新規ネット商品立ち上げ、経営企画に従事。2017年から株式会社リクルートスタッフィングにて取締役兼執行役員として経営企画や人事などバックオフィス全般を担当。2019年から株式会社リブで執行役員として、中途採用サービスの事業責任者を担当した後、2023年から株式会社RiceWineの取締役CFOとして、バックオフィス全般に加え、SCMや商品開発まで幅広く管掌。
現在のRiceWineはどこまで来たのか?——事業フェーズと強み
ーー事業の現状とフェーズ、注力している部分について教えてください
現在、私たちはシリーズAの資金調達を終え、シリーズBに向けた準備を進めている段階です。
「HINEMOS」として展開している12種類の定番銘柄に加え、年間を通じて季節限定商品も安定的に生産・販売しています。ありがたいことに、ミシュラン掲載のレストランでも採用いただいており、顧客からのNPS評価も高く、手ごたえを感じています。
今は販売チャネルの拡大に力を入れていて、直営店の出店を積極的に進めているところです。海外展開については、すでにシンガポールと中国に現地法人を設立し、直接販売を行っています。
特にシンガポールでは、西洋料理と日本酒を掛け合わせるというコンセプトが現地で受け入れられ、レストラン事業も順調に伸びています。
また、日本酒は基本的に酒蔵さんが問屋・酒屋さんを通じて 一般消費者やレストランに卸すのが一般的です。一方で、弊社は自分たちで直接ユーザーに販売するということもやっていて、toCに直接販売できるチャネルとして自分たちでコストコントロールしながら、かつ顧客のリアクションを直接感じることができるところも強みです。
自社製造がもたらす「資金負担の重み」、どう乗り越えたか?
ーー資金繰りで苦労した部分と、それをどう乗り越えたかについて教えてください
酒蔵を自社で持っていることもあり、立ち上げ当初は初期投資が大きく、キャッシュフローにはかなり悩まされました。設備などイニシャルで大きく資金が必要になる部分もありましたが、定期的に発注が必要となるプリント瓶のボトルは発注から納品までに2ヶ月かかるため、先にまとまった資金を用意しておく必要があります。在庫を抱える期間が長く、キャッシュの回転が鈍くなることが課題でした。
最初は銀行が協調融資でサポートしてくれたのですが、当時はまだ売上も小さく、製造業としての資金繰りの厳しさを実感しました。ボトルは銘柄ごとにデザインが異なり、最低発注ロットも大きいため、管理面でも手間がかかります。
マーケティング費用については、現時点では利益が出せる範囲内で投資を行っており、無理な拡大はしていません。私たちが特に重視しているのは、原価率の管理と、在庫がどれくらいの期間で売り切れるかというキャッシュの回転スピードです。
幸い、私たちは冷蔵倉庫を活用して通年で酒造りができる体制を整えており、一般的な酒蔵と比べても在庫回転が圧倒的に早い点が強みになっています。
成長と黒字を両立するには——出店と海外展開で見据える次のステージ
ーー今後の成長戦略について、教えてください
現在、国内事業に関しては黒字化の見通しが立ちつつあります。今後は「どのように成長と黒字の両立を図るか」が経営上の重要なテーマです。その一環として、6月からは横浜の赤レンガ倉庫への出店など、直営店の出店を強化しています。
直営店は1店舗あたり1,000万円以上の初期投資が必要ですが、おおよそ1年程度で投資回収が可能な見込みです。事業全体としては、イニシャルコストが先行する構造を前提に運営していますが、収益性の見通しが立つ案件から着実に進めており、キャッシュアウトのタイミングとリターンのバランスを重視して展開しています。
また、海外市場への展開も加速させており、現在はシンガポールにてレストラン形態での展開も行っています。しっかり売上実績も出始めており、今後は同国での直営店出店を積極的に進めていく計画です。加えて、中国市場にも注目しており、中長期的には台湾をはじめとする他のアジア圏への進出も視野に入れています。これらの事業展開は、調達した資金を活用しながら推進していきます。
海外市場の魅力としては、販売単価が日本国内の約2.5倍程度で成立する点が挙げられます。例えば、国内では3,000円の商品が「やや高め」と捉えられることもありますが、シンガポールでは同商品を7,000円以上で提供しても「割安」と評価されるケースがあります。
一般的な日本酒メーカーでは、卸業者や輸出ディストリビューターを介して海外販売を行うことが多いですが、当社では直販モデルにこだわっています。これにより、現地で肌感覚を持ってスタートすることができており、さらに価格の最適化とブランド訴求の一貫性を実現できていることが、中長期的な競争優位性につながると考えています。
なぜFlex Capitalを選んだのか?——CFOが語る意思決定の背景
ーーFlex Capitalを知ったきっかけは?
もともとベンチャーデットには関心があり、頭の片隅にはずっとありました。
資金調達の選択肢として検討していたタイミングで、複数のプレイヤーがいる中、最初に話を聞いたのがFlex Capitalでした。
シリーズA後の資金調達をどう進めるかを考える中で、いろいろと情報収集もしていて、静岡銀行のベンチャーデットの取り組みについて耳にしたり、CFOをしている友人からの情報も参考にさせてもらったりしていました。
「審査の速さとシンプルさ」で他社を圧倒。Flex Capitalの第一印象は?
ーーFlex Capitalは他社と比較してどのように感じられましたか?
率直に言って、「審査が早い」というのが第一印象です。Flex Capitalはシステム上にいろんなデータを格納させていただくと2週間程で判断していただけます。銀行からの借入も行っていますが、Flex Capitalの審査のスピードに驚きました。
また、他の金融機関と比較するとFlex Capitalはシンプルでスムーズに進めることができ、「利用しやすさ」という面でも非常に優れていると感じました。
資金繰りの柔軟性が未来を変える──スタートアップが選ぶ“第三の選択肢”
ーーFlex Capital Invoiceの利用に至った背景についてお聞かせください
キャッシュフローの平準化、つまり資金繰りを安定させられることが、このサービスを利用する一番大きなメリットだと感じています。
私たちのビジネスでは、日本酒が最も売れるのは12月です。ただ、資材の発注は2ヶ月前には行わなければならず、10月〜11月にかけて大きなキャッシュアウトが続きます。にもかかわらず、実際に売上の入金があるのは翌年の1月になるケースが多く、その3ヶ月ほどの資金ギャップが課題でした。
そのギャップを、Flex Capital Invoiceを使うことで埋めることができ、資金繰りの平準化につながりました。昨年末に実際に利用させていただいた際に、「これは本当にありがたいな」と実感しました。
また、現在、新たに利用をお願いしているところですが、今回は資材発注に関する話で、例えば「3,000個の発注だとこの価格だけど、4,000個だとさらに単価を下げられます」といった提案がある場合に、多少資金の前倒しが必要になります。そんな時にこのサービスを活用すれば、より有利な条件で大量発注が可能になり、結果的にコスト削減にもつながると考えています。
ーーFlex Capital Invoiceのサービスを他社と比較してみての感想をお教えください
他社の同様のサービスのお話を伺った際、取引先との間に3者間契約を結ぶ必要があるとの説明を受け、非常に煩雑に感じました。また、その仕組みでは、資金繰りに困っているような印象を取引先に与えてしまう可能性もあり、そういった点も避けたいと考えていました。
そういった点を踏まえると、取引先には当社が支払った形となり、他の請求書立替払いサービスの提供会社と比較しても契約形態や手数料が優れているという点において、総合的に非常に高い評価をしています。
ーーデット調達と比較してみての感想をお聞かせください
Flex Capitalへ手数料を支払ったとしても、発注ロットを増やすことで、トータルのコストを抑えられる、という発想ができたのは、最初にFlex Capital Invoiceを利用した経験があったからこそだと思っています。実際に使ってみて、「あ、こういう形で資金を柔軟に使えるんだな」という実感があり、それが前向きな意思決定につながりました。
一方で、建物関連、つまり出店にかかるような大きな初期投資には、このサービスは必ずしも最適ではないかもしれません。今、RiceWineでは直営店の出店を積極的に進めているところですが、そのような用途ではやはりデット(借入)のほうが適していると感じています。
ーー使ってみたからこそのFlex Capital Invoiceの魅力があると思うのですが、これをスタートアップ企業にどのように推奨するべきだと思いますか?
キャッシュアウトとリターンの間にタイムラグがある支払いに対しては、非常に有効だと実感しています。
たとえば、仕入れ費用や人材紹介料などの採用コストといった支出は、売上や生産性への効果が出るまでに時間がかかります。そうした費用の支払いを繰り延べることが可能な立替払いサービスを活用することで、キャッシュフローを安定させることができ、経営判断にも余裕が生まれると感じています。
ーー逆に、Flex Capital Invoiceの改善点はありますか?
毎月の支払いもシンプルで、特に困ることはないですね。強いてあげるとすると、料率は低い方がいいというくらいです。利用期間が長ければ長いほど、料率が下がる、みたいなものがあれば、利用する側のインセンティブにもなるかなと感じました。
「資金を入れる」だけでは足りない——戦略で選ぶ、これからの資本政策
ーー今後の資本政策とファイナンスについてお聞かせください
資本政策については、以前は典型的なスタートアップのように、エクイティで一時的に赤字を掘ってでも成長を優先し、上場を目指すという戦略を想定していました。しかし、最近の市場環境が厳しくなっている中で、VC側のスタンスも変わってきており、「利益重視」という声が強まっているのを感じており、私たちも利益コントロールをしながら、成長させることにチャレンジしています。
VCから出資を受けると、キャッシュが潤沢になる一方で、「とにかく成長させよう」というモードに偏ってしまいがちです。利益コントロールがある程度進んできている今、改めてエクイティに何を求めるのかを、慎重に考えるようになりました。
当然、資金調達の手段としてエクイティ調達は重要ですが、それだけでなく、出資してくれる企業が我々にどのような戦略的な価値をもたらしてくれるかを重視したいと考えています。たとえば、我々にとって協業できるパートナーであること、あるいは海外展開を見据えているのであれば、海外に強いネットワークを持つ企業からの出資の方が相性が良いといった具合です。
そうでないのであれば、今の我々のフェーズでは、資金調達はエクイティ以外の手段のほうが適していると考えています。たとえば、設備投資のように分かりやすい資金使途であれば、銀行からの融資も比較的スムーズに進みますし、そういった部分は伝統的な金融機関に頼るのが合理的です。
一方で、敷金のように融資が難しい領域については、他の柔軟な調達手段を検討していく必要があると考えています。資金の性質に応じて調達手段を使い分けていくことが、これからのフェーズではより重要になってくると感じています。
資本戦略の鍵は“タイミングと対応力”——金融機関に求める真の役割
ーー今後の資本戦略において、金融機関に対しどういったサポートを求めているかお聞かせください
そうですね。基本的には、先ほどお伝えした通り、現在の国内戦略は直営店の出店を軸に据えています。1店舗あたりの初期投資は1,000万円以上と大きく、今まさに4施設ほど新規出店の交渉を進めているところですが、仮に全てが同時に動くとすると、キャッシュアウトは数千万円規模になります。
そうなると、「営業チームにGOサインを出していいのか」という意思決定が慎重にならざるを得ません。そこで、Flex Capitalを含む金融機関のサポートや資金面での安心感があることで、私たちもより自信を持って成長戦略を実行に移すことができます。そういった“安心材料”をいただけることが、非常に重要だと考えています。
また、日本酒業界では12月が最大の繁忙期ですが、販売準備のためには10月〜11月にかけて大きな仕入れや投資が発生します。その時期に備えて、資金面を平準化できる体制を整えることも、引き続き重要です。そうした季節要因に応じた柔軟なファイナンスが可能であれば、会社としても計画的かつ攻めの経営ができるようになります。
このように、出店戦略やシーズン対応を支える金融機関の柔軟な支援は、今後の資本政策において欠かせないパートナーシップになると考えています。
さいごに
2018年の創業以来、「世界の日常を変える日本酒を。」というVisionの下、事業を拡大してきました。グローバル80億人が理解できる「時間」をコンセプトとする”HINEMOS”というオリジナルブランドを、自社の酒蔵の製造し、オンラインや年間のべ900日を超えるポップアップ、直営店での販売を通じて、展開しています。
また、創業当時からの想いである「日本発のプロダクトで、世界と勝負する」ことを実現するため、2023年からはシンガポール、中国に現地法人を設立し、海外での展開も拡大しています。
実際に販売する中で、日本酒が好きな人だけではなく、日本酒が今まで苦手だった人にも喜んでもらえていること、また海外でも受け入れられていることに手応えを感じており、国内外のより多くの人に届けていくために事業を推進しています。
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Fivotは、スタートアップ企業のためにデットファイナンスである「Flex Capital」を提供しています。審査は最大2週間で最大3億円の融資が可能です。
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