ベンチャーデットで資金需要の波を乗り越える-LRM株式会社の資金戦略について

目次
事業概要と成長の軌跡
コンサルティングとSaaS、二本柱で築く成長基盤
ーーまずLRM株式会社の事業内容について教えてください。
幸松:
当社は情報セキュリティサービスを展開しており、大きく分けて「コンサルティング事業」とSaaS事業「セキュリオ」の二つを柱としています。
コンサルティング事業では、企業が情報セキュリティ体制を構築・運用するための支援を幅広く行っています。具体的には、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証取得に向けたコンサルティング、社内規程やルールの策定支援、従業員向けの教育・研修などです。企業のセキュリティレベルを底上げし、リスクを最小化するための伴走支援を行ってきました。
一方、SaaS事業として展開している「セキュリオ」は、従業員一人ひとりのセキュリティリテラシーを高めるためのクラウドサービスです。情報漏洩の原因は、高度なサイバー攻撃よりも、パスワード管理やメールの誤送信などの人為的なミスに起因するものが圧倒的に多いのが実情です。だからこそ、システムだけに頼るのではなく、「人の意識」を変えることが、最も本質的なセキュリティ対策になると考えています。
- 幸松哲也 | LRM株式会社 代表取締役
- 新卒でTIS株式会社に入社、システム開発の提案から、開発・運用保守までを担当。その後、外資系IT企業、システム会社を経て、2006年12月にLRM株式会社を設立、現在に至る。情報セキュリティコンサルタントとしてISMS、Pマークの取得支援企業は延べ500社を超える。同時に、7年間に渡りISMS認証審査機関において、主任審査員として審査業務に従事。2020年3月に幻冬舎より「そのセキュリティ対策が会社を潰す」を出版。2021年より情報経営イノベーション専門職大学 客員教員に着任。
- 藤居朋之 | LRM株式会社 CCO
- 新卒で入社したWebベンチャー企業において新規事業立ち上げを担当し、事業企画から新規顧客の獲得、マーケティング運用等の幅広い業務に従事。LRM入社後は営業やコンサルティング事業の管掌を行いつつ、現在はコーポレート領域の責任者としてIPOに向けた動きを加速させている。また、広報担当役員としてブランディングや対外的な発信、メディアリレーションを管掌する。
SaaS事業立ち上げの背景
ーーSaaS事業を立ち上げたきっかけを教えてください。
幸松:
創業当初はコンサルティングが中心でしたが、多くの顧客企業と関わる中で、「どの企業にも共通するセキュリティ課題」があることに気づきました。こうした課題を解決するには、属人的なコンサルティングだけでは限界があります。より多くの企業に効率的に価値を届ける手段として、クラウドサービスの可能性を感じました。
当時、ISMSをクラウドで一元的に管理できるサービスは存在せず、「ないなら自分たちでつくろう」と決断しました。初期はISMS管理の効率化を目的としていましたが、開発を進める中で「本当に解決すべきは人の意識の低さ」だと強く認識するようになりました。そこで、機能を思い切って絞り込み、社員教育やリテラシー向上に特化した「セキュリオ」として方向転換しました。
この転換は大きな挑戦でしたが、結果的にサービスが明確な価値を打ち出せるようになり、導入企業から高い支持を得られるようになりました。従業員一人ひとりの行動変容にフォーカスした点こそが、当社のSaaS事業が成長を続ける理由だと考えています。
顧客層と市場でのポジショニング
大企業への導入拡大
ーー顧客層の変化について教えてください。
幸松:
創業当初はスタートアップや社員数百名規模の中堅企業が主な顧客でした。しかし近年は、従業員1万人を超えるような大規模エンタープライズ企業への導入が増えています。現在、「セキュリオ」の契約社数は2,200社を超え、そのうち有償契約は1,500社以上に達しています。
導入企業の業種は多岐にわたりますが、特に多いのはITシステム関連企業や製造業です。これらの業種はサイバー攻撃を受けた際の事業停止リスクが極めて高いため、セキュリティ投資の優先度が年々上がっています。市場の競争環境で言うと、国内市場では同種の競合は限られており、海外製品が一定の存在感を持っている状況です。その中で、当社は「日本企業の実態に即したサービス」を提供することで、独自のポジションを築いています。
顧客のセキュリティ意識の変化
ーー顧客のニーズにはどのような変化がありますか。
幸松:
数年前までは「情報漏洩が発生した際に損害賠償を避けたい」という受動的な意識が主流でした。しかし、最近では「事業停止そのものが最大のリスクである」という認識が急速に広がっています。サービス提供が止まれば取引先や顧客に大きな影響を与え、企業の存続リスクに直結するためです。
実際、社員一人の不注意によって全社の事業が止まってしまうリスクは、あらゆる企業に存在します。そのため、多くの経営者が「従業員のセキュリティリテラシーの底上げは避けられない課題」と考えるようになりました。これまで「自社は十分にセキュリティリテラシーが高い」と胸を張って言える企業に出会うことはほとんどなく、その現実が当社のサービス価値を一層高めていると考えています。
これまでの資金調達の軌跡と課題
成長フェーズに応じた資金調達戦略
ーーこれまでの資金調達の流れについて教えてください。
幸松:
SaaS事業の立ち上げ初期は、コンサルティング事業で得た利益と銀行融資を主な原資として運営していました。一定の資金をベースに事業を拡大していくことはできましたが、SaaS事業の成長スピードに合わせて、先行投資の必要性が拡大してくると、自己資金と銀行融資だけで資金をまかなうことに限界が見えてきました。
そのタイミングで新たに導入したのがエクイティファイナンスです。当社はすでにコンサルティングでの実績と顧客基盤を持っていたため、投資家からの理解を得やすく、比較的スムーズに出資を受け入れることができました。SaaS事業単体での実績がまだ十分でなかった時期に、コンサルティング事業による信頼性が大きな後押しになったと考えています。
銀行融資の特徴と工夫
ーー複数の金融機関と取引をされていますが、気をつけていることなどはありますか。
藤居:
当社では複数の金融機関と並行して取引を行い、四半期ごとに業績や財務状況をまとめた報告書を提出しています。報告内容は良い点だけでなく、課題も含めて正直に伝えることを徹底しており、その誠実な姿勢が信頼関係の構築につながっていると思います。
銀行担当者によってスタンスや温度感は異なるため、1行に依存せずネットワークを広く持つことを重視しています。その結果、タイミングによって融資が難しい場合でも、別の金融機関が支えてくれるケースがありました。
一時期は年商に迫る規模まで借入残高が膨らんだこともありましたが、こうした地道な情報開示と丁寧な関係づくりによって融資を継続できたのは、当社にとって大きな強みだと考えています。
融資に限らず、外部との関係性を築くうえでは、「誠実さ」と「一貫性」が重要だと考えています。当社では銀行やVCといったステークホルダーに対して、常に分かりやすく、矛盾のない形で情報を届けることを意識しています。そうした姿勢が結果的に信頼を得ることにつながり、資金調達の円滑化にも寄与していると思います。
Flex Capitalを活用した資金調達
導入のきっかけ
ーーFlex Capitalを利用した背景について教えてください。
幸松:
資金繰りが最も厳しかったのは2023年初頭でした。事業は急速に拡大していたものの、銀行融資は稟議や行内調整に時間がかかり、必要なタイミングに間に合わない恐れがありました。エクイティも短期での調達は難しく、資金需要に対して即効性のある手段を模索していました。その際に株主から紹介を受け、Flex Capitalのベンチャーデットを知り、利用を決断しました。
他の金融機関と比べると手続きが非常にシンプルで、必要なのは月次決算・会計データのアップロードだけです。煩雑なやり取りが不要で、実行までのスピードが速かったことにより、キャッシュポジションを大きく改善できた点は非常に大きな効果でした。
審査プロセスの特徴
ーーFlex Capitalの審査プロセスについてはいかがでしたか。
幸松:
スピード感は圧倒的でしたね。銀行の稟議を待っていると資金ショートのリスクが高まる局面もありましたが、Flex Capitalは迅速に実行いただけたので、非常に助かりました。
藤居:
銀行融資では行内の重層な稟議プロセスを経るため、数週間から数カ月を要するのが一般的ではないかと思います。それに対し、Flex Capitalでは必要書類が最小限に絞られており、審査は短期間で完了しました。財務数値の確認をベースに、事業性や成長性を重視して評価いただいた印象です。
返済負担とキャッシュフロー管理
ーー返済面についてはいかがですか。
幸松:
返済負担は常に意識していますが、今回の借入は「ランウェイを延ばすための戦略的な選択」でした。結果として事業を止めることなく計画を遂行できたため、十分に価値のある判断だったと考えています。
藤居:
銀行融資と比較すると金利水準は高めではありますが、他の融資と同様、返済スケジュールや条件は事前に明確化されており、元利金の返済額は予測可能です。キャッシュフローを踏まえて計画的に管理できるため、短期的に必要な資金をスピーディーに確保できた効果の方が大きいと感じました。
スタートアップを支える新しい資金調達手段への期待
スピードと柔軟性を兼ね備えた成長資金
ーー今後の資金調達手段について、どのように考えていますか。
幸松:
現状ではまだ選択肢として十分に浸透しているとは言えませんが、もし「スピードと柔軟性を兼ね備えたノンバンク型の成長資金」が当たり前に利用できるようになれば、日本のスタートアップエコシステムは大きく変わると思います。資金調達を「待つもの」ではなく「掴みにいけるもの」に変えていくことが、これからの企業成長を支える鍵だと考えています。
藤居:
今回利用したのはベンチャーデットですが、将来的にはノンバンクによるスタートアップ向けの融資が、もっと一般的に認知されていくと良いと思います。政策金融公庫からも「民間からの借入を増やすように」といった要請がある中で、銀行だけに依存しない資金調達モデルが広がれば、成長企業にとって大きな追い風になるはずです。
今後の展望と資本戦略
2030年に売上100億円を目指す
ーー今後の成長戦略を教えてください。
幸松:
当社は今後もSaaS事業を成長の柱と位置づけ、2030年には売上100億円・従業員200名体制の実現を目標としています。AIの活用を積極的に進め、業務効率や生産性を飛躍的に高めることで、さらなるサービス拡充を目指します。
また、IPOについては一つの目安としていますが、それ自体をゴールにするつもりはありません。IPOはあくまで成長を加速させるための通過点であり、本質的には「より多くの企業に価値を届け、社会のセキュリティレベルを底上げする」ことが目的です。
ーー最後に読者の方にメッセージをお願いします。
幸松:
僕たちは「セキュリティを自分ごととして捉えられる社会」をつくりたいと考えています。そのために、従来の「セキュリティ」という言葉が持つ堅苦しいイメージを取り払い、誰もが身近に感じられる、親しみやすいサービスを提供していきます。
社内はフラットな組織であり、社員一人ひとりの意見を尊重し合える環境があります。自分の力を最大限に発揮したい方にとっては最適な職場だと自負しています。
今後もより多くの企業のセキュリティリテラシーを高め、情報漏洩を一件でも減らすことに貢献していきたいと思っており、その積み重ねが、日本企業全体の事業継続性を高めることにつながると信じています。「面白そうかも」と思っていただけた方は、ぜひ一度お会いしましょう。
ーーこの度はありがとうございました!