保険DXからFintechへ──HokanグループがFlex Capitalと描く「攻め」と「守り」の資本戦略
目次
はじめに
保険業界のDXを推進するHokanグループは、保険業界向け顧客・契約管理システム『hokan®』や、保険業界特化型のプロフェッショナルサービス『CIEN(シエン)』に加え、P2P型のオーダーメイド補償モデルを提供する『Frich(フリッチ)』を展開し、保険業界のデジタルインフラ構築を牽引するスタートアップ企業です。2023年10月にシリーズB総額15億円の資金調達を完了後、2025年10月にデットファイナンスにて総額10億円の資金調達(デットファイナンスラウンド)を公表しました。本資金調達では、株式の希薄化を回避しつつ、加重平均資本コストの最小化を図るとともに、成長投資に必要な資金を確保するため、次回エクイティファイナンスのラウンドに先立ちデットファイナンスを選択したことが特徴です。
成長フェーズにおける資金戦略として、エクイティとデットを組み合わせたハイブリッド型のファイナンスを選択し、従来の金融機関では実現が難しいスピードと柔軟性を備えたFlex Capitalのベンチャーデットファイナンスを活用し、資本コストの最適化と成長投資の継続を両立しました。
成長期に直面する資金繰りや財務体質の課題を乗り越え、財務基盤を整えながら事業成長を加速させるーー本稿では、Hokanグループ執行役員CFOの大竹さんに、シリーズB調達の背景、Flex Capitalに対する評価、そして今後の展望をお伺いしました。
Hokanグループについて──保険業界の変革を支えるDXプラットフォーマー
ーーHokanグループの概要について教えてください。
Hokanグループは、「保険業界のアップデートとアップグレード」を掲げるInsurTech企業です。保険流通におけるデジタル化の遅れや複雑な契約・顧客管理の非効率を解消すべく、テクノロジーと専門知見を兼ね備え、業界の構造改革に挑んでいます。中核を担うのが、保険業界向け顧客・契約管理システム『hokan®』です。顧客情報・契約管理・成績管理・保全活動等を一元管理し、保険業界に求められる各種規制・コンプライアンスにも対応できるシステムとして、全国の保険代理店や保険会社への導入を加速しています。

また、2024年に立ち上げた『CIEN(シエン)』は、保険業界特化型のプロフェッショナルファームとして、営業・経営・人材育成まで包括的に支援をしています。

2025年7月には、P2P型オーダーメイド補償モデルを展開するインシュアテック企業『Frich(フリッチ)』がグループにジョインし、「プロダクト(hokan)×ソリューション(CIEN)×クリエイティビティ(Frich)」の三位一体構造を確立しました。
こうした事業ポートフォリオを通じ、保険業界全体のアップデートとアップグレードに寄与しながら、デジタルと専門知見を融合した新たな価値創出と、保険業界の変革を支えるDXプラットフォーマーとしての地位を目指しています。

- 大竹 隼人/株式会社Hokanグループ 執行役員CFO
- EY新日本有限責任監査法人で金融機関を中心とする監査業務に従事後、フロンティア・マネジメントでM&Aアドバイザリーを担当。AIスタートアップを経て2022年にhokan入社。経営管理体制の構築と財務戦略の立案・実行を推進し、シリーズBを牽引。2023年8月、執行役員CFOに就任。
Flex Capitalとの出会い
ーーFlex Capitalを知ったきっかけを教えてください。
以前からFlex Capitalの存在は認識しており、スタートアップに特化した新しい資金調達手段として興味を持っていました。ちょうどシリーズBの資金調達を検討していたタイミングで、ベンチャーキャピタルの方からご紹介をいただき、お話しする機会を得ました。
当時は複数の調達手段を比較検討していたこともあり、スタートアップの成長フェーズに寄り添うFlex Capitalの姿勢に強く関心を持ちました。
デットファイナンスラウンドの決断
ーーデットファイナンスラウンドでの資金調達の背景と判断を教えてください。
シリーズA調達以降、一定のバーンを続けながら事業を拡大していたため、まず、財務体質を改善するため、エクイティファイナンスを中心に検討し、2023年10月にシリーズBを公表しました。その後、2025年からシリーズCを検討しましたが、保険業界は保険業法改正が控え、今後大きな変化の波が来ると感じており、現時点で株式を発行するよりも、もう一段成長した後に評価を受けた方が企業価値の最大化につながると判断しました。
実際、当社のトップラインは前年から倍増し、黒字化の見通しも立ち始めていました。こうした実績を背景に、将来キャッシュフローでの返済が見込めると説明できたこともあり、エクイティ調達を実行せず、デットファイナンスのみで構成されるラウンドを実行する方針を定めることができました。
結果として、エクイティファイナンスに先立ち、通常のローン、社債も組み合わせた調達を実現しています。エクイティは返済義務がない代わりに資本コストが高く、デットはその逆です。両者をどう組み合わせるかが、CFOとしての腕の見せどころであると思います。
調達プロセスとFlex Capitalの存在感
ーーFlex Capitalを選んだ理由とプロセスを教えてください。
シリーズBおよびデットファイナンスラウンドでは、銀行や政府系金融機関など複数の候補先と交渉を進めていました。一方で、従来型の金融機関は審査プロセスに時間を要するケースが多く、迅速な資金確保が難しい面もあります。
その中で、Flex Capitalはスタートアップ特化の審査スキームとシンプルな融資条件により、他には無いスピードを実現しており、当社のようにスピードを意識するスタートアップ企業にとって非常に親和性が高いと感じました。
実際に利用してみると、申込みから条件提示までのスピードが非常に速く、必要な審査資料も明確で、やり取りが効率的でした。必要書類を提出してから、契約締結と融資実行までが月内で完了する。スタートアップにとって「機会を逃さないこと」が何より重要であり、その意味でFlex Capitalは非常に頼れるパートナーだと感じました。
金融機関との違い──スタートアップに寄り添う仕組み
ーーFlex Capitalの特徴をどのように感じましたか。
最大の違いは意思決定の速さと手続きのシンプルさにあると感じました。銀行では代表者面談や複雑な稟議を経て実行まで数カ月かかるのが一般的ですが、Flex Capitalではその負担がほとんどありません。
契約条件も極めてシンプルで、経営者保証や担保が不要、新株予約権の付与も不要です。株式希薄化を避けたい企業にとって大きなメリットです。
さらに、口座開設義務がなく、融資後の報告・モニタリングも非常に簡便です。資金使途や経営判断の自由度を確保できるため、管理体制を構築中のスタートアップでも扱いやすい仕組みになっています。
そして何より、将来のキャッシュフローや月次業績をベースに事業性を評価してくれる点が大きいです。スタートアップは成長のためにバーンを拡大することが一般的ですが、そのようなステージの損益や財務体質の不安定さにとらわれず、成長ポテンシャルを見て判断してもらえるのは非常にありがたいと感じました。
Flex Capitalへの期待とこれからの関係
ーー利用後の印象と今後への期待を教えてください。
審査スピードと柔軟な対応力は、他社にはない強みだと思います。
ファンド系金融機関だと実行まで3〜6カ月かかることもありますが、Flex Capitalは最短2週間で契約まで進む。調達を複数ルートで並行する際、最初に意思決定してくれる存在は非常に心強いです。
金利は市場水準より若干高めに感じましたが、スピードや無担保・保証なしといったメリットを考慮すれば十分に納得できる水準です。モニタリングや報告も簡便で、実務負荷が少ない点も助かります。
また、今回のデットファイナンスラウンドでも、Flex Capitalが最初に実行を決めてくださったことが大きな転機になりました。そのスピード感と信頼性が他の金融機関との交渉にも良い影響を与え、スムーズな調達プロセスにつながりました。まさに、Flex Capitalの判断が資金調達全体の“試金石”になったと感じています。
今後は、事業のKPIや資金使途に応じて、より柔軟にストラクチャーを設計できる仕組みを期待しています。
デットとエクイティのバランス──資本コストの最適化を意識して
ーーHokanグループでは、デットとエクイティのバランスをどのように考えていますか。
既存事業が黒字化するまでの運転資金はデット、新規事業やM&Aなどの「攻め」はエクイティという位置づけで考えています。資本コストの観点では、デットはエクイティよりも安価で、希薄化も伴いません。その一方で返済義務があるため、財務健全性を損なわないようバランスを取ることを常に意識しています。
近年では、金融機関側もスタートアップの将来性を重視するようになり、損益や財務体質が不安定であっても「返済可能性がある」と判断し、融資実行に至るケースが増えています。当社も、成長率や収益構造を丁寧に説明することで、複数の金融機関から前向きな評価をいただきました。こうした市場の変化は、スタートアップにとって追い風だと感じています。
事業計画と予実運用──ボトムアップとトップダウンの融合
ーー財務管理や予実の進め方について教えてください。
シリーズAまでは経営陣主導のトップダウン型で計画を作っていましたが、シリーズB以降は現場の積算をベースにしたボトムアップ型に移行しました。
各事業部がKPIを積み上げ、コーポレートが全体を統合し、最終的に経営層が整合性を確認するハイブリッド型の運用を行なっています。結果として、現在はほとんど予実の乖離が出ない精度で運用できています。マネジメント層には財務状況を定期的に共有し、コスト意識を浸透させています。
また、財務・法務・会計・労務などの専門資格や経験を持つ人材を先行投資的に採用し、管理体制を早期に強化しました。保険という高い信頼性を求められる業界において、ガバナンス体制の整備は「守り」の投資であり、同時に「攻め」の基盤でもあると考えています。
資金余力がもたらした変化──意思決定の質が変わる
ーーFlex Capitalによるデット調達後、どのような変化がありましたか。
手元資金の余裕が生まれたことで、経営判断における「時間的・精神的な余裕」ができました。スタートアップは常に資金繰りと隣り合わせですが、その不安にとらわれすぎると本質的な意思決定ができなくなります。
今回のデット調達でランウェイを大幅に延ばせたことにより、戦略的な投資やプロダクト開発に腰を据えて取り組めるようになりました。資金余力があることで、より長期的な視点で意思決定できるようになったと感じています。
今後の展望:Frich社のグループジョインとさらなる成長
ーー2025年7月、Frich社をグループに迎えました。その狙いを教えてください。
当社グループにとって初めてのM&Aで、今回の資金調達が実現したことで踏み切ることができた戦略的な一手でもあります。

Frich社は、P2P型のオーダーメイド補償モデルを提供するインシュアテック企業です。ペット保険や自治体向けの新しい補償スキームを展開しており、当社のグループに加わることで、これまで『hokan』で支援してきた「代理店業務の効率化」や「コンプライアンス対応」といった“守り”の領域に加え、コミュニティ主導型の保険と同等の新たな補償モデルや共済プラットフォームの開発という“攻め”の領域にも踏み出すことができました。
Frich社をグループに迎え入れることにより、「プロダクト(hokan)×ソリューション(CIEN)×クリエイティビティ(Frich)」という三位一体の構造が完成したと言えます。保険代理店を通じた間接的な支援にとどまらず、今後は消費者に直接リーチするサービス展開も視野に入れています。

私たちが目指すのは、「保険の持つ価値を正しく届ける世界」の実現です。そのために、Fintechやデータ活用の領域にも積極的に踏み込みながら、業界全体のアップデート・アップグレードに貢献していきたいと考えています。
ーー本日は大変ありがとうございました。



