TOP ご利用事例 樹木葬とDXで未来の宗教界のプラットフォームを作る——366を支えるファイナンス戦略

樹木葬とDXで未来の宗教界のプラットフォームを作る——366を支えるファイナンス戦略

株式会社366 様
少子高齢化やライフスタイルの変化により、日本の寺院はかつてない課題に直面しています。檀家の減少、地域社会とのつながりの希薄化とそれに伴う収益構造の変化。こうした状況に対し、株式会社366は「樹木葬事業」と「DX支援事業」の二本柱を通じ、寺院が現代社会に求められる形で宗教の価値を発揮し続けられるよう、その経営をサポートしています。今回、取締役CFOの八木さんに、事業の概要から資金調達の工夫、そしてFlex Capitalの活用について詳しくお話を伺いました。

目次

366の事業概要について

―― まずは株式会社366の事業についてご紹介いただけますか。

株式会社366の事業は宗教法人のコンサルティングです。寺院経営のサポートを通じて、宗教者の活動を実りあるものにし、ひいては宗教界全体を活性化することを事業目的としています。この社会は物質的な豊かさだけで真に豊かになることはありません。宗教や宗教者は生活者に対して多くの心の豊かさをもたらし、 現代社会にふさわしい形で価値を提供し続けなければ、その存在に意味はありません。私たちは持続可能な社会において宗教の重要性を認識し、宗教法人をその経営面からサポートすることを通じて、豊かな社会づくりに貢献します。

事業の柱は大きく二つあります。一つ目は「樹木葬事業」です。一口に樹木葬といっても世の中には色々なスタイルの樹木葬があるのですが、私たちが寺院にご提案するのは、必ず境内の一角に庭園を造成し、その中に小規模区画の墓地を設置するものです。樹木葬が売れることは、その寺院にとって新しい収益源が増えて経営基盤が強化されるという意味だけではなく、各寺院に新しい関係人口がもたらされるという意味があります。各寺院はこれまでの宗教活動と一体となって樹木葬を運営していくことになりますが、私たちはその橋渡し役としてオペレーションにまで踏み込んだサポートを行います。

二つ目は「DX支援事業」です。こちらは、キャッシュレス決済や顧客管理(CRM)システムなどデジタルの仕組みを導入することで、寺院の業務を効率化する取り組みです。お布施や墓地管理料といった定期定額のお支払いをキャッシュレス化する「寺Pay」や、檀家情報を一元管理できるCRMシステムを開発、提供しています。

この二本柱を組み合わせることで、寺院が経営を安定させながら、持続的に社会に価値を提供るできるよう総合的なサポートを行っているのが、366の事業の特徴です。

―― 樹木葬事業は、社会的にも注目されている分野ですよね。

はい。その背景には、お墓は従来のように子孫の代に継いでいくもの、という考え方から、永代供養墓といって、継ぐ必要のないものに変わってきているということがあります。ここには日本の人口動態、家や家族のあり方、ライフスタイルやその価値観の変化など、複合的な要因が重なっていて、もはや一過性のトレンドではなくなっています。そのような永代供養墓というカテゴリーの中でも、今、最もニーズがあるのが樹木葬なのです。

私たちがプロデュースする樹木葬のことをきちんとお話しようとすればキリがないのですが、一点だけその特徴を申し上げるなら、マーケティング的には強く女性を意識しているということです。日本人夫婦は夫が2〜3歳年上で、そこに寿命差を考慮すると、夫が亡くなったあとに妻はだいたい10年くらい長く生きる、というのが平均的な姿です。現代は、男性である夫が一家の大黒柱としてお墓のことを取り仕切るような時代ではないのです。

  • 八木隆二 / 株式会社366 取締役CFO
  • 1969年 静岡県静岡市生まれ。株式会社フィスコ取締役等、複数の上場企業役員を務めた後、eワラント証券株式会社代表取締役、株式会社Zaif代表取締役を歴任。金融機関の内部管理体制構築に精通し、長くFinTech関連事業の推進を指揮。2022年11月から株式会社366に参画。

DX支援と「寺Pay」の役割

―― DX支援の取り組みについてもお聞かせください。

宗教界は、現在でも現金でのやり取りや紙の台帳による管理が主流であり、運営面でのデジタル化が遅れている実情があります。社会全体でキャッシュレスやデジタル管理が普及するなかで、宗教界だけがアップデートされずに、宗教活動とは直接関係のない古い慣習だけが残り続けています。私たちが開発したキャッシュレス決済サービス「寺Pay」は、複数の決済手段を一括で利用できる仕組みです。特徴は寺院特有の取引に対応している点です。「お布施」「墓地管理料」の決済は、双務契約ではなく、当事者に対価関係はありません。「寺Pay」は税務や資金決済法の要件をクリアするとともに、取引に付随する寺院特有の業務や情報管理に連動する仕組みになっています。

さらに、寺院の経営基盤を強化するために「おてら366」というCRMシステムを提供しています。このシステムは檀家の名簿や過去帳をデジタル化し、さらに宗教活動や法要などの履歴も一元的に管理できる仕組みです。寺院にとって最も大切な資産は檀信徒です。檀信徒の情報をデジタル化によって一元管理するという、ごく基本的なことが現代の寺院経営ではいまだに大きな課題となっています。おてら366を利用することで、各寺院はこれまで感覚や経験に頼っていた檀信徒対応を情報に基づいて最適化できるようになり、宗教活動をより良いものに昇華させることができます。

また、NTT東日本と共同で「お寺コール」という見守りサービスの実証実験も進めています。あらかじめ録音した住職の声を、独居高齢者などに定期的に自動発信する仕組みです。AIが応答音声の内容を解析し、緊急時だけでなく、不安や孤独といったネガティブな兆候を検知した場合には、家族などに通知が届くよう設計されています。寺院が社会から求められる存在であり続けるため、「人々のコミュニティ」として機能するよう、地域や社会に寄り添う活動を支援しています。

資金調達について

―― これまでの資金調達についてお聞かせください。

創業当初は、「宗教界の活性化のため、寺院に対する総合的なコンサルティングを提供したい」という創業時の想いに共感いただいた個人やエンジェル投資家からの出資により事業をスタートしました。その後は、事業の成長に伴い、ベンチャーキャピタルからの出資も受けることができました。しかし、シリーズA以降の調達では、理念への共感だけでなく、その理念を具現化したビジネスモデルとその実績、さらに今後の成長戦略を数字で明確に示すことが求められ、資金調達の難易度は格段に高くなりました。

投資家に説明する際は、事業計画と実績を定量的に示すことが求められます。もちろん全てが計画通りに進むわけではありません。そのため、成果が出ていない部分については「なぜうまくいっていないのか」「どのような代替手段を取るのか」を誠実に説明することが不可欠でした。こうした過程を経て、理解を得られた投資家から追加の資金を提供いただき、事業の成長を加速させることができました。

―― 投資家との関係づくりはどのように進めてこられましたか。

主要株主とは、毎月オンラインで定例ミーティングを行っています。そこで事業の進捗状況を報告し、次の方針について具体的なアドバイスをいただいています。単なる資金提供者というよりも、事業の成長を共に考えてくれる伴走者のような存在です。

さらに外部に対しては、セミナーやピッチイベントを通じて宗教や信仰の重要性と寺院がここに果たすべき社会的役割に共感してくださる支援者を増やす活動も続けています。投資家に対してはもちろん、広く社会に向けて「宗教と信仰が世界を豊かにすること」を伝え、共感を広げることも重要だと考えています。

Flex Capitalを選んだ理由

―― Flex Capitalをご利用いただいたきっかけを教えてください。

Flex Capitalを知ったのは、主要株主のご紹介がきっかけでした。

借入にあたる「デットファイナンス」については、当初は財務バランスへの影響を考慮し、慎重な姿勢を取っていました。成長局面にある当社としては、できるだけエクイティ調達を中心に据えたいという考えがあったためです。

しかし、エクイティ調達には投資家とのタイミングの合致や長期に亘るデューデリジェンスへの対応が必要であり、必ずしも計画通りに進むとは限りません。そのため、将来のエクイティ調達までの「つなぎ資金」として、デットファイナンスの活用も検討する必要があると考えるようになりました。

そこで、実際に複数の金融機関と交渉し、デットファイナンスの提案をいただきました。しかし、残念ながら、その多くは返済期間が半年から1年程度と短く、手数料も高水準であり、成長投資を継続しながら持続的に事業拡大を目指す当社の戦略とは合致しないと判断しました。

そんな中、Flex Capitalからご提案いただいたベンチャーデットは大変魅力的でした。有利な金利条件に加え、1年半という比較的長い返済期間を提示いただいたことで、資金繰りに余裕を持たせながら次のエクイティ調達に向けた準備を計画的に進めることが可能になったのです。

この調達は単なる資金確保ではなく、事業成長のための投資を継続しながら、最適なタイミングで次の資金調達を実行するための「時間を確保する」戦略的な選択だったと言えます。

―― 審査プロセスや手続きなどについての印象はいかがでしたか。

非常にシンプルで効率的なプロセスだと感じました。366は、リモートワークを前提とした組織運営を行っており、社員は紙の書類や押印といった従来型の手続きはほとんど行っていません。銀行融資では、詳細な資料の提出や対面での説明が求められ、相応の時間と労力を要することが一般的です。一方、Flex Capitalの場合は、会計ソフトや銀行口座とAPI連携が可能なシステムを実装しており、最小限の手続きで申込に必要なデータを提出できました。このデジタル化されたプロセスにより、スムーズに手続きを進めることができました。

調達後の資金活用と事業の変化

―― 実際に調達した資金はどのように活用されましたか。

今回の資金は、主にDX支援事業の拡大に活用しました。具体的には、当社が提供するキャッシュレス決済サービス「寺Pay」の機能強化と、大規模寺院への導入に必要な人員増強・マーケティング活動に資金を充てています。

現在進めているプロジェクトの一つとして、4,000〜5,000件規模の檀家を抱える複数の大規模寺院での導入が決定しており、この規模での実績は業界的にも大きな意味を持つと考えています。もしこの導入プロジェクトを成功させることができれば、「寺院業界においてもキャッシュレスが実際に普及可能である」という明確な証拠を示すことができます。これは、今後のエクイティ調達において投資家に事業成長のストーリーを伝える際、大きな説得材料になるはずです。

当社の主力事業である樹木葬事業はすでに多くのの寺院で展開し、当社の安定した収益基盤として確立しています。しかし「お墓」の問題は寺院経営にとって氷山の一角に過ぎず、より本質的な問題解決に対して私たちが提供できる価値として、今回の資金調達を通じてDX事業の比率を高めることが、366にとって次の成長ステージに進むための大きな一歩になると考えています。

今後の展望

―― 今後の事業展開とファイナンス戦略について教えてください。

当社の成長戦略としては、引き続き「樹木葬事業」を通じて、実績と収益基盤を着実に強化していきます。樹木葬は寺院にとって新たな収益源となるだけでなく、私たちにとっても業界における信頼構築と市場開拓の重要な足掛かりとなります。

この事業で築いた寺院との信頼関係と、樹木葬をきっかけに生まれる檀家との接点を活かし、現在、「寺Pay」を中心としたデジタルサービスへの普及へと展開を広げています。

キャッシュレス決済が普及すれば、お布施や供養料などの取引がデータとして蓄積されます。このデジタルデータを活用することで、まず「顧客管理(CRM)」が可能になり、さらに発展すれば「寺院経営全般の統合管理(ERP)」へと広げていくことができます。つまり、「樹木葬事業による関係構築→キャッシュレス決済の普及 → データに基づく檀家管理 → 経営全体の最適化支援」 という段階的な価値提供を通じて、寺院経営を包括的に支えるプラットフォームへと発展させていくロードマップを実現できるのです。

資金調達については、将来的にまとまったエクイティ調達を実現し、「寺Pay」を全国に広げるための投資を行いたいと考えています。ただし、エクイティ調達は投資家の関心や市場環境によってタイミングが合わない場合もあります。そのため必要に応じて「デットファイナンス」による資金調達を組み合わせ、柔軟に対応する方針です。

いったんのゴールは2030年のIPOです。上場することで資金調達力を高めるだけでなく、企業としての透明性や信頼性を確立し、寺院や寺院を利用する方々にとっての“公共財的なインフラ”として機能していきたいと考えています。寺院が安心して利用できる基盤を社会に提供すること、それこそが366の使命です。

最後に

―― 記事をご覧になる方々へのメッセージをお願いします。

現代の日本は少子高齢化や地縁の崩壊、さらにはライフスタイルやその価値観の変容により、寺院の社会的役割が揺らいでいます。しかし、物質的な豊かさが一定水準に達した現代において、人々が真の豊かさを求めたときに、宗教と信仰には、本来、より一層、その意義が生じるべきところ、残念なことにそのゲートウェイとなるべき寺院がその力を失っています。

366は、寺院の宗教活動を支える経営基盤を整え、テクノロジーと伝統を組み合わせて、人々にとって真に豊かな社会を実現させたいと考えています。

当社のビジョンや取り組みに共感いただける方は、採用や事業連携、投資など様々な形でご一緒できる可能性があると思っています。ぜひお気軽にご連絡ください。

―― 本日はありがとうございました。

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